嗚呼、心地良い 血 の香りだ。


《鮮血のロンド》


「…何ですか、アレ。」

困ったように、口元が釣り下がる。
瞳は包帯で隠れているので、その思惑は上手く読み取れない。

「うーん…何って言うか、白虎だよ。うん。」
「自己完結しないで下さい。全然説明になってません。」
「あっはは、お前、ツッコミかよ!」
「…。」

こんな時にでも何時も通り笑っている朱雀を見て、華乱は小さく溜息をついた。
ゆらり、と横に動きながら此方に少しずつ迫る少女を目に留めず、長廊下の手すりの上に
頬杖を付いて座るその姿が何となく残酷で、朱雀は肩を揺らした。

「ま、どっちにしても僕は    」
「…?」

彼の最後の言葉は、白虎の急襲により掻き消された。
がきん、という鈍い音が朱雀の前を一瞬にして通り過ぎ、華乱を襲っていた。
冷ややかにサーベルを右手だけで前に突き出し、白虎の両手の爪を止める。
ぎりぎりと鋼鉄の震えながらぶつかる音がして、少女の腕を振動させる。

「…力、弱いですね」
「……ぁ………は、は」

俯いた少女の口から不思議な声が漏れる。
震える腕に更に力が篭り、華乱は――実際どうだったか解らないが――驚いたように瞳を大きく見開いた。
刹那。
物凄い力で前からの圧力が彼を後ろへ吹っ飛ばした。
長廊下の柱を何本かふっ飛ばし、バキバキと木の枝を折りながら向こう側の壁に激突した。
もくもくと煙が上り、木っ端微塵になった木の破片が辺りに散乱する。

「あはははは!あはは!あはははははは!」

狂気だった。
狂気、凶器、狂喜、兇器。
哂う。笑う。哂う。笑う。笑って笑って笑って笑って笑って笑って、哂って哂って哂って哂って哂って哂って。
狂ってくるって狂ってくるって狂う。

少女は、狂気の哂いを浮かべて立っていた。

小さな四肢で床を押し支え、両の手の爪をガリガリと擦り合わせ、
血に染まった頬を嬉しそうに舐めて、其処に居た。

「あっははは!あっは、飛んだ飛んだ!!」

先程までの飴を舐めていた少女の面影は無い。
官能的だとでも言う様に、体をわなわなと震わせて己を抱きしめる。
其処にあるのは、戦闘に対する 悦び。
鮮血の香りをまとう事に快感を覚える、異常なまでの感情。

「…つまんなーい、速く来てぇ。」
「言われずとも。」

煙の今だ消えぬ方を見ていた白虎の背後から、華乱は飛び出してきた。
橙の髪をふるわせ、口元に走る一本の血の流れがその衝撃の凄まじさを物語っていた。
華乱は心の中で思った。

―――肋骨が何本かイカれてるな。

しかし、そんな事はどうでもいい。
僕は生きるために戦うんじゃない。

「…死ぬために生きてるんだ。」

すっとした爪が華乱の瞳があるだろう場所目掛けて手を伸ばす。
それを間一髪で首を横にして避ける。
包帯が擦れ、鋭い爪は触れただけで布切れを切り裂いた。

「…ッ!」

しゅるり。
緩く解ける布切れ。
頬にかかって肩にかかる包帯がはがれ、あらわになる両の瞳。


朱雀の呼吸が、一瞬止まる。


空気が、




凍った。




「…綺麗な、瞳………。」

白虎の矮小な躯が、崩れ落ちる。
狂気的な瞳を歪ませ、赤い色に身をよじりながら。

白い虎は、牙をむかない。

「僕の瞳を、直視したみたいですね…。」
「どういう事だ?」

後ろを見たままで、華乱は同じように呟いた。
サーベルについた血を払ってから床に突き立てる音が、響いた。


朱雀の瞳が細められる。
腰に差した刀が、一瞬カタリ、と揺れた。

「お前、何者だ?」




「僕は月代一族の血を受けた、名も無き一族の末裔。名は華乱。…そして」

「悪魔の瞳の持ち主。」


赤い瞳が赤い鳥をひと睨み。





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