善も悪も、好きも嫌いも、出逢いも別れも、生きるも死ぬも、笑うも泣くも、愛されるも愛されないも。


《一陣の幻想即興曲》


「……んぉ?ああ、時雨か。」

楓は、聴き慣れた心地好い声を愛しく思いながら振り向いた。
其処には、やはり見慣れた紺青色。
紺青はゆっくりと近づくと、そっと床に座る楓の背中に自分の背中を預けた。

「な…。」
「ちょっと、良いでしょ?」

紺青姫のゆるやかなねだりに、楓は静かに黙って肯定した。
親が子供を見るような、そんな優しい雰囲気が背中越しに伝わってくる。
ぬくもりが暖かい。
このまま、ずっと此処に居たい。






「ねえ…私が死んだら、泣いてくれる?」





「……は……?」
「泣いてくれる?」
「何縁起でも無ぇ事言ってんだよ時雨。第一…」
「応えてよ。」

時雨の声は震えていた。
背中が、少し離れる。
ほんの少しの距離なのに、時雨が消えてしまいそうで、一瞬楓の鼓動が高鳴った。
手を伸ばしても届かない?
いや、そんな事は無い。
ちゃんと背中がぬくもりを感じているんだから。

「泣かねぇよ。」
「……そう。」
「なぁ、時雨…」
「邪魔したね。もう行くよ。」

あ、と言う暇もなく、時雨は忍速で消えていた。
背中のぬくもりも、もう無い。
楓は胸に何かが引っかかったようなもどかしさを持ったまま、ふと立ち上がる。

「ったく……何なんだよ…?」


「せっつかぁ!」
「うぉう!」

シリアスモードに入っていた楓は、突然の衝撃に驚いた。
誰なのかは、何となく解る。
妙なハイテンションと、下心からではないが………ふくよかな胸。
恐る恐る振り返ると、やはりそこには長いウェーブの髪と胸の大きく開いた服の副班長が居た。
水を操る覇(は)班のセクシー副班長こと、千夜 神楽。

「んだよ…千夜か……驚かせんな。心臓に悪い。」
「この馬鹿!!」

ばちーん。
不意を突かれた。否、状況が飲み込めない。如何して引っ叩かれなきゃならないのだ。
叩かれた頬をそっと押さえながら、神楽を睨みつける。

「何すんだよ!痛ぇじゃねぇかよ!」
「今のでも足りない位よこの馬鹿阿呆鈍感野郎!!」
「よく言ってくれたじゃねぇか!俺の何処が馬鹿で阿呆で鈍感だって?!」


「…飛燕の…飛燕の気持ちの解らない奴なんて馬鹿で阿呆で鈍感な野郎よ!」


しん、と沈黙が一瞬走る。
楓の瞳が大きく見開かれ、顔から笑みが消える。
神楽は相変わらず怒り顔で楓を見ている。

「……何…だって…?」
「聴いてたわよ。あんた、本当に飛燕が死んでも泣かないの?」
「…。」

問い詰めるようなその声に、楓はバツが悪そうに目を逸らす。
そして一言。



「ああ、泣かないだろうな。」
「…あんたっ……飛燕の事、好きなんじゃないの?」
「……いや…泣けない、のか。」


**********


「ひとつ積んでは、父のため。
 ふたつ積んでは、母のため。
 みっつ積んでは、ふるさとの、兄弟、我が身と、回向する。
 あの世の果てで、この声が、聞こえたならば、立ち上がれ。
 この数珠の音、聞こえたなら、たぐり来い…。」

「華乱。何がそんなに哀しいのですか…雛様がもう直ぐ蘇るというのに。」

「僕は…何も感じてなど居ませんよ?爺様…。」

「そうか。それなら良いが…。そうだ、悲しい知らせがあるのだが。」

「何でしょう?」

「…あの娘が、雫が…敵の手に落ちたそうだ……。」

「それは…悲しい事です。もう直ぐで爺様の計画が達せられるというのに。」

「しかし華乱。」



「お前はそうでは無いだろう?」






「必ずや、私の期待に応えてくれると思っているぞ。」

「…はい。」




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