護りたかったのは、貴方だけ

《寂寥感と聖夜曲》



最初は、傷の舐め合いだったのかもしれない。


相次ぐ戦乱によって親と、鷹和(たかわ)という兄を亡くした私と、
同じく両親と雹明(ひょうめい)という妹を亡くした哉佳。
だから、人の居ない焼け野原で出会うのは必然だった。


『初めまして』


小さな洞窟を見つけ、私達は其処を仮住まいとした。
幾分か落ち着くと小屋のような家を借りて平民として暮らした。
町は復興を続けていたが治安は悪く、死体もごろつく町だった。

私は哉佳に鷹和を重ねて見ていたし、哉佳は私に雹明を重ねて見ていた。
その感情がいつの間にか仮の恋に変わった。
お互いにかけがえのない人として相手を見る様にもなった。
当たり前だった。


それからまた少し年月はたって、私と哉佳は糸断に入った。
5年後、私は爾(に)班長として宝刀“蓮華”を受け継ぎ、哉佳も小一位として地位をもらった。


『ずっと一緒に居よう』


幸せだった。
何気ない日常は何時までも続くと思っていたし、純粋にそう願っていた。


そして必然のように其れは突然壊れたのだった。


班長として初めての任務は、逆賊の討伐。
蓮華もまだうまく扱えない私に、先代総括長はそんな大任を任せた。
先代総括長はその頃から、信頼を失っていた。
多分、私が女だから贔屓にしたつもりだったのだろうが、総括長には誰も逆らえない。
放伐の噂も流れていたが、小さな火種でしかなかったのだ。その頃は。
私はそれでも嬉しかったし、不安でもあった。
逆賊は国で一番大きな犯罪組織。
初めてとしては、大きすぎるプレッシャーだった。

不安はきっかりと的中したのだ。
それも私が一番厭い、恐れる形で。



鮮血に染まる戦場で不覚にも私は、後ろを取られた。
蓮華は私を拒絶し、まともに持つことさえ儘ならない私が戦うことなど不可能だったのだ。
相手の刃の切っ先が正に心臓を抉り取る瞬間。

刃をその身に受けたのは、哉佳だった。




「哉……佳?」
「如月……無事だったか…?良かった…。」

悲鳴。
声がもう出なくなるんじゃないかと思うくらい絶叫した。

「どうして?!こんな…」
「……如月。」

その瞳が真っ直ぐすぎて、私は息をするのも忘れてしまった。
哉佳の震える手が私の短かった髪を撫でる。


「大…好き……って…言って…く…れない…か…?」


私は酷い顔をしていただろう。
涙が溢れて止まらなかった。
哉佳は死ぬ。其れはもう変わりようのない運命だ。
ならばせめて、彼の笑った顔で。
私の笑った顔で。


「…大好き。」


笑う。
彼は安らかな顔をして死んでいった。
その時私は、放心状態に陥っていたのだ。
きっと。


敵も、味方も関係ない。




虐殺。




殺した。
怒りと憎しみにまみれて。
哉佳が死んだのだ。
最愛の人が死んだのだ。
何故他の人でなく哉佳が死ななければならなかった?


『お前なんて殺してやる』


私の精神状態はおかしかった。
気が付けば、あたり一面鮮血だった。
紅い。

そして初めての任務で私は殺人犯となった。



「…刀が…蓮華が……紅い…。」


刀は血を吸って特有のどす黒い色に変色していた。
紅に鈍く光り、吸いきれなかった鮮血がぽたぽたと滴り落ちる。
ふと気が付けば、自分も血に塗れていた。

血を吸いすぎた刀は恨みと怨念によって妖刀と化す。
今の蓮華は、最早班長の持つべき刀ではなかった。
妖刀・紅蓮(ぐれん)。

それがふさわしい。
そう私は思った。




しばらくして、駆けつけた救援隊に私は捉えられた。




「慶鳴 如月。大量殺人罪により死刑に処す。」


先代総括長は私を死刑に処した。
法廷での私を見る目は、酷かった。
班長に就任したときの祝福したようなまなざしは消え、刺すような視線だけ。

でも私にとって一番辛かったのは、哉佳が死んだことだけだ。
他は、

もうどうでもいい。



「……百回死んで、償ってもらおうかの。」
「千回でも足りませんでしょう。」
「…自分がした事を、解っておるか?」


「…ええ、総括長。私は………人殺しです。」



そこで私は牢に入れられた。

そして出会ったのだ。
紀梅(きうめ) 白舞こと、現・総括長にして先代・蔽班長に。


「…強い、瞳だ。」
「私に何をしに来たのだ。嘲笑か?」
「……名前を捨てろ。お前を使ってやる。」

「…何を?」


不明な言葉を残して去って言ったその数分後、先代総括長放伐の報告が駆け抜けていった。
殺したのは、多分あいつだ。

紀梅 白舞。

そして私は釈放となった。
何故だかは解らない。
多分、権力だろう。


名前を捨てた。
哉佳と一緒の、『慶鳴』を捨てた。




私が護りたかったのは哉佳だけで、
私が愛していたのは哉佳だけで。







「爾班長・砂湖(さこ) 如月。」
「は。」





「総括長に忠誠を誓い、私の血で契約を捧げます。」


「良い。」




だからもう私は他の人などどうでも好いのだ。

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