「貴方のことが狂おしいほどに護ってあげたい」

《純粋な悲しみの即興小曲》 




「爺や…嫌よ、こんなの嫌よ……。」
「いいえ、逃れられはしません。…これはヒナお嬢様の運命です。」


爺やはヒナの腕を優しく撫でると、吸い込まれるように傷は消えていった。
自分の手を掴む爺やの手を振り解き、ヒナは腕を着物の袖に隠す。
逃げようとして、走り出す。
しかし、蒼い光の前に立つと、何故か心が惹かれてしまうのだ。
雛の前を通ろうとすると、胸が高鳴る。
小さな少女は、誘惑に勝てなかった。
恍惚とした表情で光に手を伸ばすと、その場でぱたりと倒れた。
ヒナは意識をもう一度手放す前に声を聞いた。




《お休み、小さな私。》




「四季曜石、月代 霧雨。」
「四季曜石、月代 華乱(からん)。」
「四季曜石、月代 雫(しずく)。」
「四季曜石、月代 冬。」


4人の戦士が現れた。
全員額に月の紋が描かれており、代わり映えのしない服を着ている。
老人は満足そうに笑った。
霧雨のほうを向く。

「北の守護神を確保いたしました。これから、東西南を確保いたします。」
「ああ…。これから戦争だ。」

老人はうっとりと光を見つめた。
狂気のような表情を浮かべて。

「雛様、貴女様の栄光はもうすぐ戻ってきます。」







「おい、朱雀!どうして時雨に酒を飲ませた?!」

楓は朔夜の部屋でいきなり朱雀に掴みかかった。
朱雀は反動でおおきく揺れる。

「何を言ってる?僕は今日ずっと神楽(かぐら)と2人だけだった。」
「時雨はお前に酒を飲まされた!」
「間違いだ!僕は部屋を出たのは今が初めてだ!」


神楽、というのは朱雀の班の副班長の千夜 神楽のこと。
彼女は音も無くそこに立っていた。
遅く着いたようで、息切れしながら口を開いた。

「私が証明するわ、椄翔。班長はずっと私と一緒。飛燕とは会ってない。」

額にうっすらと汗が滲んでいる。
それでも強い瞳で楓の瞳を見ていた。

「じゃぁ誰が…?時雨に酒を仕込んだのは誰だ?!」
「私よ。」

神楽とは違う女の声が朔夜の病室に響く。
紺色の髪と瞳。
時雨に良く似た顔、額に大きな月の紋。
あの時東風が見たという敵と一致する。
下ろした髪が揺れるのは、黒い代わり映えのしない服。

「四季曜石の、月代 霧雨。《夢幻術師》よ。」
「お前まさか…!」
「それと、その子に仕込んだのは酒じゃないわ。薬よ。」
「な…っ!」」

「大丈夫、只の精神撹乱剤。気持ち悪くなって寝ちゃうだけ。」

霧雨はにこり、と笑った。
あまりにも時雨に似た微笑みだった為、一同は時雨が笑ったような錯覚を覚えた。
そしてバサリと服をはためかせると、最後に言葉を残して消えた。

「……戦争になるわ。いずれ貴方達の…」





御命 頂戴 仕る。





霧雨は音も無く消えていった。
朱雀と楓は立ち尽くす。
時雨は途中から既に意識を手放し、静かな寝息が聞こえている。
神楽は殺気から開放されてその場にぺたりと座り込んだ。

朔夜のベッドから、完全に熱は消えていた。





白舞は部屋でぐっすりと眠りこけていた。
仕事を全部部下に任せっぱなしで。
がくん、と頬杖をついていた手から顔が落ちる。
がんっ!といい音がした。
手から顎が落ちて、机にぶつかったようだ。

「痛っ!!痛いな畜生!」


自業自得だがその辺はつっこまずにスルーしよう。
顔を上げた青年は端正な顔立ちに綺麗な銀の髪。
この青年が世界でも有数の力を持つ人間だとは思えない。
白舞総括長、人々はそう言う。
しかし、実際そうなのだから認めざるを得ない。
不意に白舞は何かを感じ取って窓から外を見る。

「ん?」




暫らくそのまま時が過ぎる。
次の瞬間、爆弾が爆発したような音が辺りを包んだ。
風は急に勢いを増し、白煙とともに焦げ臭い匂いを運んでくる。


「今日の寝起きは最悪だな。」


白舞は一人、呟いた。







「北の守護神は輝日 朔夜。」

「南の守護神は……ぃ。」

「東の守護神は………。」

「西の守護神は………。」


二つの一族が向き合っていた。
そしてほの暗い屋敷の中で話し込んでいる。
一つは月代、一つは紅染。
月と桜の紋。

「我等が姫は紅染 雛。」
「我等が姫は泡沫 小宵こと、月代 天皇女(あまみこ)。」


「今我等は集い、敵を圧倒し、姫を取り戻すことを誓わん。」

「次の満月の夜、我等は力をあわせて敵を倒そう。」


紅染は言う。月代は言う。
二つの一族は一つに力をあわせた。
糸断を、敵に回して。
戦の合図は、満月の夜。


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