順序が逆よ、白は黒より強いの。

《黒白的な哀歌》




「……っ………。」

千曲は走っている。
人目につかない裏道を、忍速で。
走らないと痛みで倒れてしまいそうだった。
もう限界に近い。
糸断の処内は静かに騒がしかった。
ちらちらと聞き覚えのある声が、聞き覚えのない声と話している。
そもそも糸断は昼のうちはデスクワークが多く、夜になると仕事が増える。
夜の方が出勤する糸断は多い。
なぜなら、夜には物の怪などがうろつく時間帯だからだ。
物の怪や妖怪などと言われるもの達は、日の光を好まない。
闇に生きるものを殺すことを生業とするなら、闇に生きる無ければならない。

今は夜行性の糸断の、唯一の睡眠の時間だった。
最も、仕事中ではあるが。

ぽた、ぽた。
紅い痕が、床に付く。

「…っ血が止まらない……!」

傷は予想以上に深い。
血を残さないように走っていると、やっと総括処の扉の前に来た。

千曲は迷わずその扉を背で押す。
裏道にはすべての部屋と直結する道がある。
総括長室の扉を開けた。
そこには、見慣れた紺色と白銀が居た。



「………千曲?」


そこには時雨と白舞がいた。
白舞は総括長の席の椅子に座り、時雨は応接の為の椅子に座っている。
話の最中だったようだ。
時雨は千曲の傷をみると、椅子から立ち上がった。
明らかに酷い。

「千曲、どうしたの?!」
「月代 冬の襲撃を受けた……。…千裂は…」

「…月代一族だと?」

千曲の思考回路は血が無い為か、格段に動きが悪くなっていた。
口が回らず、視界がゆがむ。
足に力が入らなくなる。
それを見て、溜息をついてから時雨は千曲の側に歩いてきた。
紺色が笑う。優しく。

「分かったから、ゆっくりお休み。」
「…………時雨……。」


もたれ掛かって時雨の名前を弱弱しく呼ぶと、すぅと目を閉じた。
止血のために布で左手をきつく巻く。
そのまま時雨は意識の途絶えた千曲をずりずりと引きずって、自分の座っていた椅子に寝かせた。
直ぐに千曲は意識を手放した。

「おい、時雨。」
「何?白舞。」

素で話す2人。
元々白舞は、時雨の拾い主。
幼くして飛燕家を失った時雨は、あちこち放浪した後、白舞に拾われたのだ。
白舞も、会議の時のきりっとした感じはどこへやら、今はただのガラの悪そうな男だ。
少し気を抜いたほうが元々ある魅力が引き立っている。
昔からそうだったなぁ、と今更ながら時雨はしみじみする。
これが素の『白舞』で、会議の時は『白舞総括長』。
そんな時雨も敬語が吹っ飛んでいる。


「月代 冬…?」
「千裂。千曲の生き別れた弟だよ。」

見るからに面倒臭がっている。

「じゃあ行くけど………千曲よろしくね。」
「ああ。」

時雨はそのまま白舞に背を向け、ギィと扉を押した。













「仔朱鷺。」

仕事の机に向かっている仔朱鷺は、自分の名前を呼ばれて振り向いた。
日が落ちて橙色も消えそうになり、夜闇が広がり始めている。

「………東風?」

東風の橙色の瞳が嬉しそうに笑った。
見覚えのある長いセピアの髪を包帯で一つにまとめている。
維班の副班長、狐火 東風。

仔朱鷺の幼馴染で、よきライバル。
そして糸断の華とも言われるほどの少女。

「どうしたんだ?」
()班に用事。(くれ) に会いに行かない?」

もちろんお茶とお菓子をもらいに、も忘れない東風につい微笑んでしまう。
「そうだなぁ……最近話してないし。行こうか。」
「ほんじゃ行こう!」

東風がにこり、と笑うので仔朱鷺もつられて笑った。
あ、と言って仔朱鷺は机の上の書類を見る。
今日中に済ませないといけない書類だ。

その時、休憩室の扉が静かにあいた。
眼を覚ました小宵が出てくる。

「仔朱鷺さん、行ってくださってかまいませんよ。私が仕事しておきますから。」
「小宵さん………頼んだよ。」
「はい!」

小宵の笑顔を横目に見ながら、仔朱鷺は圃班に向かった。
眠ったことで、元気が出たのだろう。

「呉は元気にしてるかな?」
「東風、圃班の糸断の人間は僕たちより数倍丈夫なんだぞ?」
「まぁそうだけど……。」


二人はそのまま圃班への道を歩いていく。
圃班は獣の恩寵を受けた者の班。
日常生活でもずば抜けた身体能力を発揮する。
二人の友、白鳳 呉(はくほう くれ) は豹の恩寵を受けた者だった。

もうすぐ、圃班の処に着く頃だ。



















薄暗い部屋に、二人が居た。


「お嬢様。」

「なぁに?爺や。」

「私めはお嬢様に見せたい物が御座います。」

「何かしら?爺や、見せて。」

「ええ……では少し奥に居ますので…歩きましょうか。」

「そうね、でも何かしら?楽しみだわ。」

「きっと………驚かれますよ、ヒナお嬢様。」


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