どうか、貴方に私の分の幸せを。

《儚い宗教曲》





「貴女は誰?!」

珍しく東風が声を荒げて相手を睨み付ける。
見下す相手は、ゆっくりと口元を歪めた。
禍々しく。


「月代 霧雨。名前は霧雨。」
「月……代……?」


其処まで言うと無表情に戻って、紺色―霧雨―は窓から出て行った。



その後、東風は放心したように床にすとん…と座り込んだ。

「東風?…お前どうした?!」」

楓が書類を届け終わって戻ってくると、部下が座り込んでいるのを目にした。
風が勢いよく吹き込んできて、長い東風の髪が揺れる。

ゆっくりと振り返ると、楓に言った。

「……楓…白舞総括長が危ない……。」
「は?」


「月代一族が…『御命頂戴仕る』って…!」

それを聴いた瞬間に、楓の顔が驚きに満ちた。
畏怖を暗示か、それとも恐怖の暗示か…。



「嘘だろ!?月代一族は滅びたはずだ!」








風だけが吹き抜けている。







「お早う。仔朱鷺。」
「お早うございますっ…て……あれ?」

仔朱鷺は心底驚いたように時雨をまじまじと見つめた。
先ほどとは着物が違う。
よく見れば、髪の色も違うような気がする。

「何そんなジロジロ見て。何か付いてる?」
「朝とは着物が違うような…。」

はぁ?と素っ頓狂のような声を出す時雨。
そのままどっかりと執務室の椅子に座った。
そして、先ほど紺色の誰かに持ち去られたはずの愛刀・東雲をぶっきらぼうに投げた。

「私さっき着たばっかりだけど?」
「そんな筈はありません!だってさっき…」

そこまで仔朱鷺が言った瞬間に、勢いよく執務室の障子が開いた。
向こうに居るのは、見慣れた維班のトップ2人。
どちらも息切れしており、かなり急いできたらしい。

「どうなさったんですか?お2人して。」
「…時雨!無事だったか!!」
「何?私居ない間に何が起こってるの?」

時雨がわからないといいたそうに首を傾げる。
東風と楓は今までの経緯を簡単に説明した。
それを聞いて、時雨は東雲を右手にしっかりと握った。

「本当にそいつは月代 霧雨と言ったの?」
「ええ…。間違いないです。」
「おかしい。」


「月代一族は滅んだはず。紅染家に滅ぼされて。」



それに、と時雨は付け加える。





「私が昔、飛燕家のお嬢様だった頃の女中は霧雨という名前だった。」





沈黙が流れた。
やはり、風が吹き抜けていく。




刹那。
だんだんと長廊下を走る音が聞こえてくる。
かなり急いでいるようだ。


姿を現したのは、小宵。
朔夜の病棟に付きっ切りだったはずだ。
小宵は叫んだ。



「朔夜くんが眼を覚ましたの!!」















「早く来て!」




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