世界が狂気に溺れても、僕は孤独。

《偽りの終曲》





「朔夜くん……。」


小宵は不意に呟いた。
思い出すだけで嫌気が差す。
自分があの時朔夜から離れなければ…後悔ばかりが迫ってくる。
突然、明々と灯っていた光が消えた。

「…皆様、お揃いですか?」

一人の救護班員が時雨達に近づいてきた。
かなり難しい治癒だったらしく、顔色が悪い。
疲れたように笑いながら、言った。

「輝日様が一命を取り留めましたよ。今、病棟に移っていただきました。」

一同から安心した溜息が漏れる。
かれこれもう丸一日眠っていないのだ。
聞けば、今は眠っているが面会できるらしい。

「……良かった…。」

心の其処から安心した声がした。
声の主の小宵がおもむろに立ちあがると、時雨がそっと肩を抱いた。
優しい、力強い時雨の瞳。

「時雨班長…。」
「行こう。朔夜に会いに。」

「…はい。」





「飛燕様、泡沫様、紫苑様ですね。輝日様は奥の308号室です。」


受付嬢の案内で病院に着いた時雨たちは、まっすぐ朔夜の部屋に向かった。
病棟は白で統一されており、ほんのり消毒剤の香りがした。
朔夜の部屋には、重病の患者という証の重々しい扉がついていた。
必要以上に大きくとってある部屋のその扉には、『関係者以外立ち入り禁止』と書いてある。

「朔夜くん…!」

小宵と仔朱鷺が先ず入り、時雨が入ろうとすると後ろから肩を叩かれた。
あの時走っていった救護班分団長だ。

「飛燕様。お話が。」
「……?」

一瞬見えた、酸素吸入気をつけられた痛々しい部下の姿を横目で見てから静かに扉を閉めた。
シンと静まり返る静寂。






「輝日様の命はもう安心して宜しいかと思われます。」
「有難う。」

「……しかし…呪(じゅ)を、かけられています。」

「…どういうことですか?」

「それが今まで見たことも無い呪で、どんな作用が有るのか解りませんでした。」
「具体的にはどのような…?」
「命には係わっては居ないようですが…記憶のほうも正常でしたし…。」


時雨は少し俯いて影を落とすと、顔を上げて有難う、と言った。
分団長はそのまま暗い顔で小さく礼をして仕事に戻っていった。
そして時雨は重々しい扉を開けた。


「時雨班長。……朔夜くん、寝てる。」
「朔夜は回復力も人一倍だ。すぐ退院できるだろう。」
「…何を話していたんですか?さっき。」
「分団長から命の心配はもう無いと言われた。」

時雨は笑った。
大切な人を護ってくれた救護班に、心の中で小さく感謝の言葉を言いながら。
それとはまた別に、頭の中で先ほど分団長に言われた言葉が時雨の中で響いていた。


『呪を、かけられています。』




時雨は眠っている朔夜の顔を見て、影を落とした。








――― ズキン。







差しぬくような痛みを、時雨は感じた。


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