手を伸ばした虚空には幻影ばかりが映るのに
《それぞれの即興曲》
緊張感が辺りを満たし、視線が突き刺さる。
初めて感じる有無を言わさぬ威圧感に、3人は硬直した。
「紅染 ヒナ。何か知らないのか?」
「…知りませんわ。」
「しかし…今反逆の狼煙を上げているのは紛うことなき紅染家だ。」
「知りませんの、本当に。私も……信じられませんわ…っ!」
取り乱しそうになっても懸命に平常心を保とうとするヒナ。
「…ではよい。下がって位置に付け。」
「…はい。」
白舞は小宵と灯宵を見据える。
流石、国一番の糸断と有って、目が合うと吸い込まれてしまいそうに感じる。
しかも、逸らせないのだ。視線を。
「帰って位置に付け。」
「では…これで。」
そのまま後ろに行くと思いきや、ヒナは親友である小宵の方へ回ってきた。
だが誰も何も言わない。
苦 し い の 助 け て
耳元で囁く弱弱しい親友の声に、小宵は酷く動揺した。
何があっても威厳たっぷりに、それこそ嫌になるくらいに勝気な彼女が。
精神が弱っている。
何も反応できぬまま、ヒナは障子を開けて音も無く出て行った。
「総括班長。」
刹那、フッと白舞を呼ぶ声がして、ある空間の景色が揺らいだ。
そして音も気配もなく千曲が姿を現す。
特隊は不思議な能力を持つ者の集団。
瞬間移動でもしたのだろうか…と小宵はぼんやりと思う。
今日は、心配事ばかりが増えていく。
嫌な予感がする。
何もないと良いのだけれど……。
「なんだ?千曲。」
「紅染が、
退
(
ひ
)
きました。」
「何故だ?」
「不明ですが…被害状況は重傷者1名、軽傷者300名ほど。」
「酷いか?」
「…瀕死です。」
嫌な、予感がする。
すると、ザッと音を立てて千曲は消えた。
白舞は2人に視線を戻して、鋭く言い放った。
「聞いたとおりだ。解散。」
的はずれな相手の動きに苛立ちを覚えながら白舞は舌打ちする。
この奇襲作戦は囮なのか、それとも他の目的があるのだろうか…?
――― 情報をもっと集めなければ。
「行こう、小宵…。」
灯宵は不安そうににこりと笑って小宵の手を引いた。
妹の手は細かく震えており、姿は硝子細工のようにか細かった。
白舞に礼をして、総括室を後にした。
救護班の忙しそうな声がする。 ガラガラと床と車輪のぶつかる音があたりに響いている。
戦闘などから帰ってきた者達は邪魔にならないように退く。
小宵と灯宵もその流れに乗ってすぐ其処のそれぞれの処へ通じる分かれ道へ向かっていた。
どんどん怪我人が治療室へ飲み込まれている。
救護班は大きくは無い組織だが、3つの分団に分割されている。
その中の一人、しかも分団長が慌しく『緊急治癒室』に向かって走って行く。
ふと、千曲の言っていた事が頭をよぎる。
瀕死の患者は誰なのだろう。
分団長がかけていった方向を見て、小宵は立ち止まった。
つられて灯宵も立ち止まる。
「邪魔です!どいてください!!」
嫌な予感がしていた。
朔夜だ。
真っ白な布が、紅く染まっている。
すると、時雨と仔朱鷺が聞きつけたのか走ってくるのが見えた。
「……小宵さん、灯宵さん…!」
「朔夜が大傷負ったって本当か?!」
もう思考回路が繋がらない。
自分に不敵の笑みを見せた彼が、瀕死の重傷なのだ。
小宵は口に手を当てて暫らく立っていたが、すとんと腰が落ちた。
瞳には涙がみるみるうちに溢れ出し、体中が震え始める。
「小宵!」
「私の……所為だ……!!」
そのまま朔夜を乗せた看護車は『緊急治癒室』と書かれた部屋に駆け込んでいった。
時雨がその方向を苦く見詰める。
バタンと重苦しいドアが閉まると、『緊急治癒室』という字に灯が灯った。
「朔夜くんが意識不明重傷者だったの……?!」
小宵の悲痛な、小さい叫びが痛々しく人の通り過ぎた後の廊下にこだまする。
4人の残されたものの沈黙の中で、小宵のすすり泣く声だけがやけに耳に響いていた。
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