心から、愛しています。貴方のことを。

《水晶泪の奏鳴曲》





「戦争だ。紅染を滅ぼせ。」

一瞬、班長たちの眼が見開かれた。
殲滅を命じられる。

「し、しかし白舞総括班長!少しばかりの人数ですし…。」
「命令だ。」

紅染家のお嬢様が、糸断の中に…攻守酋として任務に就いている。
まだ不確かな状態の中で、罪の無い人を殺すことはためらわれた。
そこまでいうと、少しばかりの殺気を含んだ威圧感が場を満たした。


「すーちゃん。白ちゃん恐い。」

朱雀の部下の白虎(びゃっこ)は、朱雀にひっつくのはクローバーの飾りを散らした小さな子供だ。

「…白虎。お前本当に恐がってるのか?」
「……えへ♪」
「私も恐イよ、如月〜。」
「お前は何時からそんな性格になった?」
「冷たイね、如月。」

如月の後ろに隠れたのも同じく、訛りの入った中華風の子供。
攻守酋の春 姫(チュン フィ)。
遠い異国の生まれで、髪の色も瞳の色も奇抜だ。



「…弥生。紅染ヒナを連れて来い。」
「は。」

紅染家の中で唯一、直接的に有ったことのある人物であり、
一族を統べる少女は、水を司る覇(は)班の所属だった。
そのため、覇班長の二藍(ふたあい) 弥生が命じられた。

「神楽(かぐら)行くぞ。」
「…はい、班長。」

千夜(ちよ) 神楽。
覇班副班長の彼女は、思わず魅入ってしまうほどの美貌を持っている。
ストレートの長髪を揺らし、首元のアクセサリーが光る。
優秀な糸断として名高い上に、才色兼備。
弥生と神楽は名コンビとしてその名が他国にも広がっている。

二人はヒナを連れて来るために出て行った。
その後間も無くして、解散の命令が出て各自位置に付いた。





緊急命令で各位置に付こうとしていた朔夜と小宵は、大勢の反逆兵と出くわしてしまった。
かなりの数で、いくら天才と謳われようとも此方が不利なのは目に見えている。

「…朔夜くん…。」
「…何だよ?」
「どうする?」
「どうにもならねえ…兎に角応援が来るまで足止めしておくしかねえだろ。」

「ごめん……。」

唐突に、小宵は謝った。
その声に朔夜は視線を小宵のほうへ向けた。

「何でだよ?」
「だって私……戦えなくて……。」

小宵は元々攻守酋でなく、救護班の班員だった。
それは、回復ではなくて『再生』させて治癒できるという類稀なる能力を持っていたからだ。
しかし、蔽班長・時雨と攻守酋・朔夜の強い要望によって前例のない2人の攻守酋が存在することになったのだ。

朔夜が不意に、小宵から視線をはずした。

「逃げろ。」
「……え?」
「お前は逃げるんだよ、俺が此処を足止めしておく。」

「…そ…そんなこと出来る訳無いじゃない!いくら朔夜くんでも…」
「後で必ず追うから、逃げろ。」

朔夜は、時々大人っぽいと、小宵は思った。
自分を護ってくれるようで、大きなものを一人で背負ってしまう。
強い。
自分よりずっと、そして男の子なんだな…と実感するのだ。
手が届かないような気がしてくる。

ピピッピピッ ビービー
刹那、場違いな機械音が小さく響いた。
懐から小宵は小さな機械を取り出して画面を見る。


【緊急収集…泡沫小宵・泡沫灯宵・紅染ヒナ…直ちに総括所へ】



「どうして…?」
「……行くんだ、今すぐ。」
「でも……。」

心配そうに見上げた小宵を見て、朔夜は不敵に、そして出来るだけ余裕たっぷりに笑った。
おもむろに両手のそでを捲り上げる。

「俺が誰かわかってんだろ?“天才・輝日 朔夜”だぜ?」
「……知ってる。」

名残惜しそうな顔をしながらも、振り切って走り出した少女を確認した後に朔夜は戦闘体制に入る。
完全なる攻守酋の瞳で敵を見据える。
―――ざっと100人か?

「……お前の一番大切なもの懸けて、俺を殺しに来いよ。」
「……。」

敵は何も言わない。
朔夜は腕に風を従え、敵の中に突っ込んでいった。

その中に一人、不思議なオーラを放つ少女がいることなど気づかずに。









「来たか…。」

白舞は眼を細めて言った。
雪を思わせる白銀の髪が威厳に花を添えている。

(わたくし)は何のために呼ばれまして?」

桜の着物を着て、額に刺青をした気位の高そうな少女は言う。
着物からして動きにくそうではあるが、ふんだんに絹の使われた高級なものだ。
一目で貴族の上の者であると解る。
鋭い眼光で白舞を見詰め、ながい桜色の髪を手ぐしで梳く。

「小宵…?」

突然名を呼ばれた小宵は、弾かれた様にに振り向く。
其処には自分の義姉の灯宵(ひよい)が佇んでいた。
小宵とは対照的な青い髪、少し大人びた顔立ち。

義姉上(あねうえ)……。」

ヒナと同じように、しかし此方は優雅な優しさを含んでいる視線だ。
灯宵は維班に所属する攻守酋。
地位的には小宵、ヒナと変わらない。

そして、紅染家と並んで《二大貴族》と呼ばれる『泡沫家』現総主。


「ちょっとばかり…聴きたい事が有ってな。」


気負った風も無く、白舞総括長は切り出した。

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