気が付いて お願い 私に気が付いて 私を見て。

《孤独な協奏曲》





忍速で玲瓏と舜架の国境をこえた。
遠く広大な舜架国と言えども、元々風は天地を翔るもの。
何よりも速く、何よりも俊敏な風だ。
気配を追って玲瓏の国境を越えてもう暫く経つ。
街中まで来ただろうか…?そう時雨は小さく思った。


紅い瞳が人を殺すものだと解っている。
まだ本格的な紅では無い。
濁った、うやむやな紅い色。
自分には……最早血に汚れすぎている。
何時の日にか、こうなってしまったのだろう?
初めは、剣を握る手も震えたのに。
こんなのでモノを…人を、殺す事なんて出来ない。
出来るわけが無いと思っていたのに。

誇らしかった。

その日、人を殺した。
何の繋がりも無い、ただやれと言われてやっただけ。
浴びた血と一緒に、吐き気が襲ってきて立てなかった。
でもそれも少しの間だけ。

強くなったと思った。

いくら任務でも、“殺した”という事実は私に付きまとった。
幸せを、殺人の上に作ってしまったのだ。
私は殺人者なのに、呼吸をして笑うことは許されるのだろうか?
そんなこと解らない。判るはずも無い。
…答えは、まだ出ていない。









あれが、標的か。
相手は何事も無く、普通に、そして自分が死に面している事など微塵も思わず。
こういう国家任務は全て蒸発させるのが基本だ。
血も、相手も、全部消す。相手の心も。
時間が無い。帰り道にも時間がかかる。
愛刀・東雲を背から抜く。
風が纏わり、密やかに殺意を持つ。

白い獣が標的を貫いて滅却した。

任務が終わった。
また人を殺した。
殺、した。




「ごめんね。」


もういない標的に向かって、私は謝った。
消えた標的に向かって。







翌日。




「時雨班長…おはようございます。」
「サボリ班長はようっす…。」
「朔夜くん!あ、時雨班長、おはようございます!」
「ん、おはよう、小宵、朔夜、仔朱鷺。今日はね…」




刹那。
聴き慣れない煩い鐘の声が聞こえる。
朝の挨拶を返した瞬間に、にガンガンガン!と警報がなる。


『処内に侵入者!侵入者!警報!警報!』
『各自位置につけ!各自位置につけ!』


処内が騒々しくなる。
是が鳴るのは非常事態という証だ。
班員が慌しく位置に付く。
はっと、朔夜と小宵が我に返る。

「おい!ボケっとしてんじゃねぇ小宵!行くぞ!」
「あ…!うん!」

2人の攻守酋は下級糸断を指揮する役目がある。
朔夜が小宵の手をひっぱってふすまを壊しそうな勢いで出ていった。

『各酋長、各副班長!直ちに総括処へ!!』

酋長とは、班長の正式名称のことだ。
副班長は酋長・つまり班長を補佐する役目があると同時に重要な戦力でもある。
総括長が事実上、班長達と糸断の頂点に立つ。

「仔朱鷺!東雲(しののめ)は?!」
「はい!これです!」


私は愛刀を背に背負って、仔朱鷺の手を握った。
ぎゅっと、ぬくもりのある仔朱鷺の手。

「忍速で行くからね!付いてきてよ!」
「はい!!」







ものの5,6秒でことは済んだ。

「蔽班風酋、副風酋、只今到着しました。」
「早かったな。忍速で来たか。」
「は。」
「只今到着しました!()班です!」

普段は姿を見せない隠密隊が久しぶりに陽の下へその色をさらす。
報告をして居る間に楓の維班が到着した。
ちゃんと帯刀をしている。

「非常事態だ。紅染が動いた。」


そこまでの言葉は、容易に予想できた。
けれど、後の言葉は私たちは予想が出来なかった。


「戦争だ。紅染を滅ぼせ。」



「全員殺せ。」




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