嗚呼、恋人よ


黒猫クロノス






音も無く上空を飛んでゆくジェット機を眺めながら、
少年は至極詰まらなさそうにアイスクリームを舐めていた。
町に人気は無い。
何故なら、この世界で人間は地球を支配出来なくなったからだ。
或る科学者が開発した新しい生命体の所為で人間は狩られる側に、
そして世界は人間の時代の終焉に向けて疾走している。

「…詰まんねーの」

少年は嘘をつく事も無く、今の自分の気持を表した。
食べ終えたアイスクリームを道端に捨て、手に持った銃を掌で
遊びながら、退屈を持て余したまま路地裏への角を曲がった。

かしゃん。

かしゃん。

白昼の世界の中で、少年は欠伸をする。
銃は宙を舞い、少年の手に戻り、また宙を舞う。
暇だ。暇すぎる。
この世界は詰まらなさ過ぎる。
少年は気だるそうにせわしなく飛び交うジェット機を見上げた。
どうせ世界は終わるんだ。
ならもっと娯楽のために使えばいいのに。
今更戦争して何の意味が在るって言うんだ。



何時もの様にすることも無くて、路地裏に入ったその時。
北極の風に背筋を撫でられた様な、そんな凍りつくほどの殺気が少年を包み込んだ。

「……何…だ?」

殺気の方向は自分の家。
言い知れぬ不安と恐怖で鼓動が高鳴る。

「親父…母さん……姉さん…っ」

路地裏は薄暗い。
麻痺した感覚で辛うじて感じられる、本能。
第六感の告げる警告。危険信号。

それは路地裏の曲がり角から飛び出してきた。

スローになったかのように、それは一瞬少年を見た。
黒い、無造作に切られた髪。
白い首筋。
心臓の鮮血を零した紅い瞳。
白いブラウス。
黒光りする不気味な日本刀。

少女。

少女は少年に目を走らせ、通り過ぎる。
少女の行く前には物体。
今ではもう原型の知れないその物体は、時折痙攣しながら逃走していた。
体から溢れ出す、気味の悪い液体。
白い、血。

「BLOOD-WHITE…!」

少女は一片の迷いも無く、物体に日本刀を突き刺す。
物体は死んだ。
そして少年は日常ならざる状況に、意識を手放した。



***



最初に見えたのは、白い天井。
そして、目の覚める様な赤い髪。

「…目、覚めたか?」
「……誰?」

少年はまだ痛む頭を抑えて赤い髪に尋ねた。
赤い髪は少し笑う。

「俺は灼崎 赤。此処の研究員さ。…おい樢!起きたぞ!」
「あーい。…うんと、外傷無し…だね」

隣に並んだ樢と呼ばれる女性。
空色の髪の毛が揺れていた。
見上げた少年と視線が合うと、はにかむようにして笑った。

「あたしは漣坂 樢。研究員だよ」

がちゃ、とドアの開く音が不意に聞こえた。
振り向くと、青年が立っている。
服はぼろぼろで髪の毛も手入れがなされていないようだ。
しかし鋭い瞳は遠くから見てもとても綺麗だと少年は思った。

「どうしたの?狛」
「…キィラが帰ってきた」
「出迎えの準備は出来てるか、樢」
「オッケー!」


3人が外へと向かおうとする中で、赤が思い出したように少年を見た。

「少年、名前は?」




「…砌 夜宮」


赤と樢の表情が、さっと変わった。




**********
灼崎 赤…ヤクザキ・アカ
漣坂 樢…サザナミザカ・トリイ
狗栂 狛…イヌツガ・ハク
砌 夜宮…ミギリ・ヨミヤ








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